【町】
剣士「魔術師さん、きみナンパの才能無さすぎるよ」
王子「流石の私でもちょっと引いたよ」
魔術師「や、アレはもちろん本気じゃないって」
魔術師「あのお嬢様、僕を見逃す時に『貴方一人しかいないようですし』って言ってただろ?」
魔術師「一番最初にあの令嬢の注意を引いた時、軽く幻惑魔法をかけといたんだ」
魔術師「だから、あの令嬢と執事にはお前ら二人の姿は見えてなかった、って訳さ」
剣士「なるほどねぇ。でもわざわざナンパする必要あった?」
魔術師「僕だって…上手くやれば可愛い女の子をひっかけられると思ったんだよ…!」
剣士「やっぱ魔術師さんはナンパの才能ないね」
魔術師「悪かったな!!」
剣士「ね、魔術師さん、ちょっといい?」
魔術師「ん?なんだ剣士」
剣士「王子さま、ちょっと俺たち席を外すね~」
王子「分かった。のんびりまっているとしよう」
王子(ふぅ…今日は夢のような一日だった)
王子(途中で令嬢や執事を見かけた時はとても焦ったけど、魔術師くんが上手くその場をやり過ごしてくれたし)
王子(…楽しかったな)
王子(でも、今日ももう夕暮れだ)
剣士「お待たせ~、待った?」
魔術師「お前は待ち合わせ中の女子か」
王子「いや、全然」
魔術師「お前も無理してノらなくていいんだぞ」
王子「おや、そういうつもりはなかったんだけどね」クスッ
王子「…さて」
王子「これ以上君たちを巻き込む訳にはいかないから、そろそろお開きにしないかい?」
剣士「王子…」
魔術師「そうだな、とりあえず探偵所に帰るか」
【町外れ】
馭者「呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーん!スマイル印の馭者ちゃん運輸でーす!」
魔術師「そんなキャッチコピーあったか?」
馭者「たった今あたしが作ったわ」
剣士「自由だな!」
馭者「だって、さっきからちょくちょく馬車を使ってるのに一向にあたしの出番がこないんだもん」
馭者「数少ない出番だし、うんとアピールしなくちゃ!」
王子「馭者さん、さっきから馬車の運転ありがとう」
馭者「いえいえ~!今後ともご贔屓にして下さるのが一番の報酬です♪」
魔術師「んじゃ、探偵所まで頼む」
馭者「了解。安全運転でぶっぱなすわよ~!」
【探偵所前】
剣士「ただいま我が家~」
魔術師「お前はただの居候だろ?」
剣士「居候でも我が家は我が家!」キリッ
王子「疲れた…」
魔術師「なぁ。王子さま、まだ僕達に言ってない依頼があんだろ」
王子「な、何を言って…」
魔術師「でも、それはもう最初の時点で解決してたぞ。お前は自分の意思で行動してここに来た。」
魔術師「いつも従者や父王の言いなりになっている自分を変えたくて、自分の力で変装して、自分の力で馬車に乗って、自分の力で僕達へ会いに来た」
魔術師「最初っから妙だと思ってたんだよ。町をうろつくだけなら城のお偉いさんに頼み込むか、変装してって周遊するとか、いくらでも方法はあったはずだ」
魔術師「それもしないでこんな隣国の辺鄙な土地に建つ小さな探偵所を尋ねるってことは、それ相応の理由があったんだろう」
王子「ふふっ、これもバレてしまうのか。全く探偵というのは末恐ろしいね」
魔術師「因みにこれは剣士の功績だ。僕は正直こういった人付き合いは得意じゃないんでな」
王子「ああ、だからナンパも下手だったのか」クスッ
魔術師「それはもうやめろ!!」
王子「とにかく、私の密かなお願いごとまでぴたりと当ててしまうなんて思ってもみなかった」
王子「では二人に最後のお願いだ。良ければ私の友達になってくれないか?」
魔術師「勿論だ。今日一日過ごしてきて、結構楽しかったしな」
剣士「俺で良ければ喜んで!いつでも遊びに来ていいからね!」
王子「ありがとう、君たちのおかげで晴れやかに祖国へ帰れそうだ」
魔術師「帰りの足は大丈夫か?」
王子「心配には及ばないよ。さっきの馭者さんが安心安全に祖国へ送り届けてくれるからね」
馭者「呼ばれた気がしたわ」ススッ
魔術師「うわっびっくりした」
馭者「王子、準備は出来た?そろそろ出発しないとお城の閉まる時間に間に合わなくなるかも」
王子「もう大丈夫、いつでも行けるよ」
剣士「じゃあ、またいつか!」
魔術師「また会おうな!」
王子「うん、お元気で!」
馭者「さーて到着!今後ともぜひぜひご贔屓にぃ!」
??「ありがとう、助かるよ」
馭者「ふふふ、あたしもこんな太客ができて嬉しいわぁ」
??「はは、馭者さんは相変わらず口が上手だね」
馭者「そりゃあこのお仕事はコミュ力必須ですからね!いいからいいから、早くあの人たちに会いにいきなさいな!」
??「うん」
カランカラン…
剣士「お、依頼人かな?はーい!!」
王子「やあ、遊びに来たよ」
魔術師「ああ、王子か」
魔術師「…えっ?王子か!?」
王子「うん、王子さ。あの後思い切って父上に外出許可を頂きにいったら、案外するりと許可が降りてね」
王子「これも全て君たちのおかげさ」
魔術師「またまた、僕達はただちょこっと背中を押すのを手伝っただけだぜ。元々自立できる素質は充分あったんだしな」
剣士「うんうん、王子自身の力だよ」
王子「ふふ、ありがとう。そういうことにしておくよ」
魔術師「とにかくこれで一件落着だな」
剣士「そうだね、コレは魔術師さん的に“どでかい案件”?」
魔術師「もちろん、パーフェクトな“どでかい案件”だ」
魔術師「僕達の今後の生活のためにも、めいっぱいここの評判を宣伝してってくれよな、王子!」
魔術師たちの探偵所から閑古鳥が飛び立つのは、もう少し先の話…。