剣士「消えた恋人を探せ!の巻」 - 3/3

青年「…行ってしまった。『お前達ふたりの問題だ』って言われても、ここには僕しか居ないんだけどなぁ」

セイレーン「いいえ、ここにいるわ」

セイレーンは意を決した様子で、ゆっくりと青年の前に姿を現した。

セイレーン「今まで隠していてごめんなさい。これが本当の私よ」

青年「彼女ちゃん…なのか?」

セイレーン「ごめんなさい…軽蔑するわよね、こんな魔族の姿…」

青年「………」

セイレーンは俯きがちに呟いた。もちろん、青年の表情は窺えない。

青年「…会いたかった!!」ザパッ

セイレーン「ね、ねえちょっと!いきなり水の中に入ってきたら危ないわよ!」アセアセ

青年「どんな姿だって関係ないよ!またこうして君と会えたんだ、まずはめいっぱい抱き締めなくちゃ!」ギュゥゥゥ

セイレーン「もう…伝えたいことはいっぱいあるのに、いまのでぜんぶ吹き飛んじゃったわ」

セイレーン「私、私…!」

青年「いいんだよ、今までずっと辛い思いをさせてきてごめんね」

青年「これからは一生そばで支えるから」

青年「改めて、僕と結婚してください」

セイレーン「…はいっ」ギュッ

同時刻。

魔術師「なあ」

剣士「なにさ魔術師さん!今猛烈にいい所なんだから大人しくしてて!」コソコソ

ハーピー「キャーッ!もうすぐキスしそうですよあの二人!キャーッ!」コソコソ

魔術師「なんでまだ僕らはここに居るんだよ…」

ハーピー「だって気になるじゃないですかー!」バサバサ

魔術師「やっと家に帰れると思ったら覗きに付き合わされる僕の気持ちも考えてくれ」

魔術師たちはハーピーの転移魔法で都合の良さそうな岩陰に転送され、一部始終を覗き見ていたのだった。

ハーピー「ホラホラ剣士くん、あのお二人ったらアツアツですねぇ~」ワクワク

剣士「そこだー!男を見せろ青年さーん!」ワクワク

魔術師「なんだこの空間…帰りてぇ…」

〈次の日、探偵所にて〉

青年「…ということで、無事に彼女と再会できたのは剣士さん達のおかげです!ありがとうございました!」

剣士「いえいえ、一番の功労者は何を隠そう青年さんだよ!」

青年「いやぁ、そんな」テレテレ

青年「そういえば魔術師さんはどこにいらっしゃるんですか?姿が見えませんが」

剣士「あの人なら、『糖分の摂りすぎで気分が優れないから不貞寝する。絶対に起こすなよ』って部屋に篭ってるよ」

剣士「ホラ、魔術師さんって恋人居ないからね!」ニッコリ

青年「笑顔でソレを告げられても反応に困るんですが」

剣士「まだ何か用事があったの?」

青年「用事というかなんというか…最近お忙しくはないのかな、なんて」

剣士「いいや全然。依頼人は一週間に2,3回ぐらいしか来ないしね」

青年「それなら良かった!…って言い方は失礼ですね」

剣士「あはは、いーのいーの。魔術師さんも趣味でやってるようなもんだしね」

青年「そうだったんですか?てっきりこの探偵所を生業にしてるのかと」

剣士「あの人、一応魔法の研究が本職なんだって」

剣士「単純に魔法を使う人を『魔法使い』って括るんだけど、その中でも魔法研究に携わる人達は『魔術師』って呼ばれるんだってさ」

青年「へぇ~。そういう事情だったんですか」

剣士「…って、随分話し込んじゃったね。ごめん」

青年「いえ、いいんですよ。面白い話が聞けて楽しかったです」

青年「では、そろそろお暇しますね。本当にありがとうございました!」

剣士「こちらこそ、ご依頼ありがとうございました!またいつでも来てね!」

〈その日の夕方〉

魔術師「ふぁ~あ。よく寝たぁ」スタスタ

剣士「おそよう魔術師さん」

魔術師「おはよう剣士。僕の中では今が朝だ」

剣士「なーに言ってんだか。…それよりさ、魔術師さんはどうして彼女さんがセイレーンだって分かったの?」

魔術師「え?わりとバレバレだったろ」

剣士「魔術師さんはそうかもしれないけど、俺みたいに剣士一筋の人間には魔力のことなんてさっぱりなんですー」

剣士「はい、眠気覚ましのコーヒー。俺も一緒に飲むからさ、事件の顛末を詳しく教えてよ」コトッ

魔術師「ん、サンキュ。じゃあさらりといくか」

魔術師「まず最初に依頼を聞いたときは、ただ単に青年くんが人間の彼女に愛想を尽かされただけかと思った」

魔術師「だが、もし本当にそうだとしたら、何かしらの形で『お前とはもうやってられねー!』っていう意思表示をする必要があるだろ?」

魔術師「何も言わずに出て行かれたら、残された人間は九分九厘ソイツを探しに出るだろう」

魔術師「縁を切ろうと家出したのに、肝心の相手が探しに来ちまったら本末転倒だ」

魔術師「逆に言うと、何も言わずに出ていくってことは、単なる誘拐か、家出したけどホントは探しに来て欲しいかのどちらかだと思ったんだよ」

剣士「なるほど。それじゃあ魔族だって分かったのは?」

魔術師「じゃあここで問題です。セイレーンといえば?」

剣士「うーんと…綺麗な歌声で船乗りを惑わせて船を沈ませる?」

魔術師「正解。ここで青年くんの言葉を思い出してみてくれ。彼女さんは失踪する前、何をしてた?」

剣士「新聞とカレーと…あっ、歌を歌ってた!」

魔術師「そうだ。まぁ、これだけなら偶然の一致ってことも考えられるが、決め手はやっぱあの水槽だな」

剣士「あの魔力で封じられてたアクアリウム?」

魔術師「ああ。但しアレはアクアリウムなんかじゃない。海の生態系を忠実に再現した…つまりはセイレーンの住めるような環境を作り上げた水槽だ」

魔術師「よーく思い出してみればわかると思うが、あの水槽には海藻が入ってたろ?」

剣士「はっ、確かに!」

魔術師「それにあの水槽は僕が入っても余裕がありそうなくらい大きかった」

魔術師「本来セイレーンはああいった水の中でないと満足に暮らせないんだ」

魔術師「青年くんに怪しまれないよう陸上に家を買ったはいいが、生命維持の為にも一日のうち何時間かは水の中で過ごしてたんだろうな」

魔術師「そしてこれも僕を見てたから分かるだろうが、変身魔法ってのは詠唱に結構な時間を要する」

魔術師「時間がかかるってのはそのぶん魔力がかかるってのと同義だ」

魔術師「人間の姿で外に出るために毎日変身魔法を唱えてたから、あの家や青年くんの周りにも魔力がこびりついていったんだろう」

剣士「ふむふむ。じゃあ最後、セイレーンさんの居場所はどうやって特定したの?」

魔術師「それも簡単だ。さっき言った通り、セイレーンは海の中でしか暮らせない。これだけでもだいぶ絞れるな」

魔術師「もしかしたら地上に居るのかもしれなかったが、まる一日ずっと水に触れないのは水棲魔族的に厳しいはずだ」

魔術師「それに加えて、あの海浜公園は青年くんと彼女さんが初めて会った場所だろ?」

剣士「あー。青年さんが熱弁してたやつ!」

魔術師「確かにどうでもいいことが解決に繋がる、とは言ったが、本当にどうでも良さそうなことがカギになるとはなぁ…」

魔術師「そこまで分かったら後は本人を説得して、依頼人と引き合わせればクエストクリア」

魔術師「まさか青年くんも海浜公園に来てたとは思わなかったが、結果オーライだったな」

剣士「だねぇ。青年くんが魔族に対して何の差別や偏見も持たない人で良かったよ」

魔術師「そういう奴だからこそ、彼女さんもあいつを好きになったんだろうなぁ」

剣士「いい話だ…」シミジミ

魔術師「ざっとこんなもんか。お前は明日も授業があるんだろ?そろそろ帰らないと寮の門限に間に合わねーぞ」

剣士「ホントだ、もう行かないと!」

剣士「じゃあね魔術師さん!」バタバタ

魔術師「おう、気を付けて帰れよ」

剣士「はーい!」ガチャリ

魔術師「よーし、目も覚めたことだし久々に魔法の研究でも…」ノビー

カランカラン…

??「たのもー!」

魔術師「…ここは道場じゃねーんだけどなぁ」

魔術師「はーい、今行きまーす」スタスタ

【玄関】

魔術師「あれっ、君は昨日の!何か依頼か?」

ハーピー「いいえ、面接に来ました」ズイッ

魔術師「え?」

ハーピー「面接に来ました」ズズイッ

【応接間】

魔術師「粗コーヒーですが」ゴトッ

ハーピー「あ、おかまいなく(粗茶じゃないんだ…)」

魔術師「え~っと、お名前は」

ハーピー「ハーピーです!」

魔術師「ご職業は」

ハーピー「冒険者兼レンジャーやってます!」

魔術師「自己PRをどうぞ」

ハーピー「この前の新聞見ました~?アレ私です!」

魔術師「新聞?…あっ、あの山道のハーピーか」

ハーピー「そうですー!私が山道のハーピーです!」

魔術師「お疲れ様でした」

ハーピー「えっもう終わりですか?合否は?」

魔術師「そもそも従業員の募集をかけた覚えはありません」

ハーピー「え~」

魔術師「突然押しかけてきてなに言ってんだか」

ハーピー「だってあなた達のお仕事、とっても楽しそうだったんですもん」

ハーピー「海辺で魔術師さんを待ってる間、剣士くんと世間話して時間を潰してたんですけど」

ハーピー「そこでお話を聞いてたら、是非私も仲間に入れて欲しいな~、と」

魔術師「そんな軽いノリでここまで来たのか?」

ハーピー「いえ、剣士くんからちゃんと正式にお誘いをいただきました」

ハーピー「私もやりたい!って言ったら二つ返事でOKしてくれましたよ!」

魔術師「あんのお気楽オバケめ…」ハァ

魔術師「っていうか僕、君にここの住所教えたっけ?」

ハーピー「何言ってるんです、一緒に転移魔法で此方に飛んできた仲じゃないですか」

魔術師「つまりどういう仲だよソレ」

ハーピー「むぅ…とにかく!私もここで働かせてください!」

魔術師「う~む、正直に言うと女手が欲しいところではあったんだよなあ」

ハーピー「では私を雇いましょう」ズズズイッ

魔術師「でも話が早すぎる。ちょっと保留させてくれ」

ハーピー「は~い。良いお返事を期待してますね」

魔術師「用件はそれだけか?もう日も落ちてきたし、そろそろ店じまいしようかと思ってたんだが」

ハーピー「待ってください、お渡ししたいものが…」ゴソゴソ

ハーピー「はい!青年くん達からの依頼状です。私の分と合わせて三枚」パサッ

魔術師「依頼状?一つで事足りると思うけど」ペラリ

ハーピー「まあ見てみてくださいよ」

ハーピー「丁度、ここに来る途中で青年くんに会って配達を頼まれたんです」

魔術師「どれどれ…?…ってコレ、結婚式の招待状じゃねーか!」

ハーピー「うふふ。魔術師さんのには手紙も付いてますよ」

魔術師「なになに…
『この度は僕達二人の仲を取り持っていただき、本当にありがとうございました。善は急げと言いますし、早速結婚式を挙げたいと思います。そこで、僕達からもう一つの依頼です。魔術師さん達も是非、僕らの結婚式にご出席ください!』」

魔術師「うわぁ…!なんだか嬉しいな」

ハーピー「私はもちろん出席しますけど、魔術師さんはどうします?」

魔術師「聞くまでもねーだろ?」

魔術師「もちろん、この依頼も喜んで受けさせて貰うぜ」ニッ

〈END〉

剣士『晴れて探偵所で働くことになったハーピーさん。俺としては仕事が減って嬉しいんだけど、魔術師さんはどうやらそうじゃないみたい…?』

剣士『そんな時、魔術師さんから衝撃の告白が!
魔術師「僕、実は伝説の勇者なんだ」
…ってなにそれー!?』

剣士『物語は急展開!ぽっと出で現れた魔王を、特に恨みはないけどぶっ潰す!』

剣士『次回!〈魔術師さん死す!〉お楽しみに!』

魔術師「嘘だろ?」

剣士「うそです」