雨垂れ意思には響かない

 ちゃりん、と心の中で音を鳴らして、達成感を充足させる。
 僕が手放した一ゴールド硬貨は、実際にはずちゃりと音を立ててがま口の財布の中に吸い込まれていった。そろそろかと思いがま口を上皿はかりに乗せると、丁度百ゴールド分の重さになっている。
 ふつふつと沸き立つ思いを抑えつつ、誰にも見られていないことを確認しながら控えめに「……よし!」とガッツポーズ。

「……で、カルメはまた両替?」
「ああ。宜しく」
 心底面倒そうにしているカペラにはわざと気付かない振りをして、僕は百ゴールドの入ったがま口の財布を手渡した。手元に感じたずしりとした重みに底知れぬ高揚感を感じる。
 カペラは僕が手渡したがま口から一枚一枚硬貨を取り出して数えていった。一ゴールド、一ゴールド、また一ゴールド、その次も一ゴールド。このがま口は、僕の一ゴールド貯金の貯蓄先だ。
 いち、にい、さん……とひとつひとつ硬貨を数えていっているカペラが呆れたように言う。
「あんたさあ、どうしてそんなに一ゴールドばっか集めてるの?」
「そりゃあ勿論、一枚ずつ集めて後で一気に百ゴールドに交換する——この快感を味わうためだ。小さくてくすんだ銅貨がきらきら光る金貨に変わる、この瞬間僕はえも言われぬ幸福感に包まれるんだよ」
「なんか気持ち悪いわねその言い方……」
「ふふん、雨垂れ石をも穿つだ。小さなことでもこつこつと続ければいつか大きな成果になる。それを忘れないようにしてるのさ」
 うむ、良いこと言ってやったぜ! これにはカペラも感銘を受けるはず……そう思ってちらりと彼女を横目で見たものの。
「その硬貨を一枚一枚手作業で数えて両替するのはあたしなんだけど。めんどくさいからやめてよね、悪趣味」
 リアリストな彼女には響かなかったようだ、無念。

「財布」「悪趣味」「雨垂れ石をも」がテーマのカルメ・ルンの話を作ってください。

文園(23zonozono)さんの保存した診断結果 – 2022/08/06 11:23
#shindanmaker

色々小説お題ったー(単語)』さんよりお題をお借りしました。