【おまけ】
「で、カル兄が代筆したってこと?」
「ああ」
聖夜当日の夕方。カルメからのグリーティングカードを受け取ったイオニアは、探偵所のテーブルに並べられた豪勢な料理に舌鼓を打っていた。カルメの料理の腕前はあまりよろしくないため、ここにある御馳走はすべてイオニアによる作品である。
カルメはちまちまとサラダを取り分けつつ、今朝の出来事——そして昨夜の出来事をイオニアに語り聞かせていたのであった。
「お前は知らないかもしれねーが、『聖夜の前夜祭の夜から聖夜の朝までの時間帯は、動物が言葉を話すことができる』なんていう古い言い伝えがあるんだ」
「でもそれってただの言い伝えなんじゃないの? だって俺、昨日夜道で野良猫を見つけたけど『にゃあん』としか言われなかったよ」
「ああ。いくら聖夜でも、何もせずに突っ立ってたら動物の言葉なんて判らん。だがな、翻訳魔法——これは本来文明のある他国の言葉にしか使えないが——これを言い伝えにある時間帯にちょちょいっと動物へかけてみればあら不思議。なぜか動物語も翻訳できるんだよ」
「へえ……なんで?」
「誰か研究してる奴はいるだろうけど、僕は管轄外だから知らねー。ま、とにかく僕はカペラの馬にその翻訳魔法をかけてやったんだ。そしたら『カペラへ日頃の感謝を伝えたいから、匿名でグリーティングカードを書いてくれないか』って言われたんだ」
「なるほどね。それにしても、『ハマト』と『ガデル』だから合わせて『H.G』かあ。うまく人っぽくなるよう考えたね」
「ふふん、だろ? 僕が唯一自分で考えたところだ」
「あ、そう」
「おい、もうちょっと褒めろよ? 僕を誰だと思ってんだー?」
「あーもううるさーい! ただでさえ徹夜明けでテンションおかしいんだからお酒なんて飲まないでよー!」
一杯の酒で早くもぐでんぐでんになったカルメは、イオニアの肩をがしりと掴んでぐらぐらと揺らす。不規則な振動に不快感を覚えた彼は全力でカルメの魔の手から逃れた。幸い、体力面ではイオニアの方が圧倒的に有利である。
強引に引き剥がされたカルメは残り少なくなった酒の杯をぐいっと飲み干した。
「飲むだろ、聖夜だぞー?」
「ったく、後片付けするのは俺なんだからね!? くれぐれも戻したりしないでよ?」
「……それは吐けっていうフリか?」
「違うよ! 吐くな!」
探偵所の聖夜は情緒の欠片もないものだが、これはこれで良い思い出となるのだろう。……恐らく。
〈了〉