みみず救出掌握小説

 じと、じと。湿った地面を歩いていると、心なしか身体まで重くなったように感じられる。勿論わたしの羽毛はいつも通りふわふわだから、ただの勘違いでしかないのだけれど。

 昨夜の大雨でここ一帯はワントーン暗い色に染まっている。植物の上に残った水が朝日を反射してきらきらと光る、それがより一際輝き、美しく感じられた。
 そんな光を間近で見たくて、わたしはわざわざ両脚を地面につけてかつかつと歩いていく。空の上からではわからないような小さな自然は、わたしの心を躍らせた。

「……あら? なんでしょう、これ」

 舗装された歩道の上で、くすんだ桃色の紐が力なくうごめいている。風に吹かれて揺られているのかと思ったが、どうやらそうでもないらしい。
 精一杯の体制でしゃがんで、翼の先端でなんとか紐を掴み取る。顔の目の前まで持ってきて、初めてそれが生き物だということが判った。

「みみずですね。こんなところまで出てきちゃうなんて」

 わたしがこの子を見つけた道路から花壇の土のところまでは結構な遠さだ。昨日の一晩でここまで移動してきたのだろうか、みみず界のトライアスロンで有力選手になれそうだ。

「ちょっと待っててくださいね……」

 みみずに声かけをして、そっと花壇まで歩みを進める。落とさないように、慎重に、慎重に。

「……よし、これでもう大丈夫ですよ! 少し休んで、また自主トレ頑張ってください!」

 わたしはみみずを花壇のふかふかの土へ寝かせた。勿論、日陰になっている所へだ。あのまま道路のど真ん中にいたら、いくら体力があっても干からびてしまうだろう。

(ふふ、少しいいことした気分)

 小さな自然と触れ合ってなんとなく胸があたたかくなったわたしは、脚取りも軽やかに探偵所への道を進んでいった。

〈了〉

 

雨の日にコンクリートの上に出て来てしまったミミズを何とか土に返してやろうと奮闘するコンレイ

文園(23zonozono)さんの保存した診断結果 – 2021/10/18 18:35
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