2.個性的な面々

 カルメ達が修道女から借りた麻縄で暴漢を縛り終えた頃、丁度タイミングよくカペラが警官達と共に教会へと戻ってきた。一人は白髪の女性警官、もう一人は金髪の男性警官だ。二人ともまだ若い見た目をしているが、男性のほうは妙に場慣れしている様子だった。
「ただいま! 警察を連れてきたわよ」
「ありがとうカペラさん。ええっと……」
「私はドロシア・セフェリアディス。ローレスタ騎馬警察、レストールの町の駐在警官です」
 女性警官がひょこっとカペラの後ろから顔を出した。気の強そうな釣り目にびしっと化粧を決め、ハネのある白髪ショートボブの毛先だけが緑に染まっているという独特な髪色だ。この髪色、どこかで見たことある気がする……とイオニアが思案を巡らせている間、カルメはてきぱきとドロシアに事情を説明していた。
「成程、事情は大体わかりました。ではこの犯人はこちらで連行しておきますね。……ニコラさん、お願いします」
 はいよ、と返事したのは金髪の男性警官だ。彼は両手を麻縄で縛り上げられている男性をひょいと立ち上がらせると、細身に似合わない力強さで犯人を連行していった。
 程なくして、教会の二階から牧師と修道女、そして先程ゴーレムに助けられた少女が下りてきた。牧師はカルメ達が集まっている方に目を向けるとぱっと表情を明るくさせ、早歩きで彼らのほうに寄ってくる。黒縁の四角い眼鏡をかけた彼は、緑に色づいた白髪の毛先をぴょこぴょこ跳ねさせながら言った。
「ドロシア、ドロシアじゃないか! 元気そうだな!」
「ディルフィスお兄ちゃん!? 恥ずかしいから大声出さないで!」
 見るからにうろたえた女性警官と牧師を見比べたイオニアは、喉につかえた小骨が取れるような心地がした。なるほど、ドロシアの外見に見覚えがあるのも当然だ。なんせ教会の牧師も全く同じ髪色をしていたのだから!
「——やあ、俺が二階にいた間にとんでもないことが起こっていたようだね。ことが大きくなる前に止めてくれてありがとう、イオニアくん」
 イオニアは教会の常連であるため、牧師とは顔見知りである。そんな仲のディルフィスから改まって礼を言われ、照れくさくなった彼は「え、えへへ……それほどでも」という煮え切らない返答しかできなくなっていたものの、しっかりと彼と握手を交わし合った。
「そういえば、こちらの紳士と淑女はイオニアくんの御友人かい? なら改めて自己紹介をさせていただこう。俺はディルフィス・セフェリアディス。そしてこっちの警官は俺の妹のドロシアだ」
「もうっ、私の紹介は済んだから!」
 ドロシアは恥ずかしそうにディルフィスの肩を軽く叩く。その様子を微笑まし気に見ていた修道女も口を開いた。礼拝の終わりに挨拶していた、黄緑色の髪をした妙齢の女性である。肩より少し長いロングの髪、その一部を右上でサイドテールにして結んでいる。長い睫毛に包まれた赤い瞳と黒い髪留めが上品な雰囲気を醸し出していた。
「では改めて、わたくしはレーニア・ハワード。つい一ヶ月ほど前に田舎からここレストール教会に赴任してきた修道女ですわ。そしてこの子はカミーユ・ノレ。レストールの富豪の娘さんで、この教会にはわたくしが来るよりも前から住み込みで働きに来ているのです。いわば見習い修道女ですわね」
 レーニアに背中を押された少女、カミーユは一歩前へと進みでて、ゆったりと礼をした。その所作は令嬢特有の気品に溢れる雰囲気を纏っている。
「さっきは縄を持ってきてくれてありがとな、レーニアさん。……それはそうとひとつ訊きたいんだが、どうしてあんなすぐに麻縄なんて持ってこれたんだ?」
 少し時は戻って、イオニアが暴漢を締め上げた後。カルメは修道女改めレーニアに「何か縛れるものはないか」と訊ねたところ、彼女は数分も経たずに細い麻縄を持ってきていた。
「あの麻縄は長さといい編み方といい、見るからに業務用の丈夫な麻縄だ。どうして教会の修道女さんが、そんな見た目に似合わない武骨なものを持ってたんだ?」
 手早く自己紹介を済ませていたカルメはレーニアへずけずけと無遠慮に問いかける。知的好奇心が強いのは結構だけど、流石にその訊き方はデリカシーがないんじゃないかな? そう思ったイオニアが助け舟を出そうとしたが、彼が言葉を発する前にレーニアの笑い声に阻まれた。
「うふふ。それは勿論差し銭を作るためですわ。あの麻縄は、普段わたくしが銭差として使っているのです」
「へ? 差し銭って、ゴールドを纏めるあれ?」
 上品な見た目の修道女から似つかわしくない単語が飛び出してきて茫然とする一同。そんな中、商売人であるカペラがいち早く反応した。
「ええ、そうですわ。わたくし、貯金が数少ない趣味の一つでして」
 ふわりと柔らかな笑顔から発される、地に足のつきまくった言葉。脳が混乱したカルメはあんぐりと口を明けたままだ。
 この教会、人間のキャラが濃いな……。傍らでぽけっとしている従兄をよそに、そんなことを思うイオニアであった。