1.残された箱

「ええ……分かってるわ。明日、必ず……」

 月明かりすら届かない真っ暗な部屋の中で、女性がうつむきながらぼそぼそと言葉を紡ぐ。この暗闇のなかでは、相手がどこに居るのかもわからない。彼女はその状態でしばらく何事かを呟いていたが、やがてゆっくりと顔を上げた。伏し目がちに開かれた瞳の先には、先程彼女が食事をとっていたテーブルが物言わず佇んでいるはずだ。女性が細い腕を伸ばして机の上をまさぐると、やがてひとつの小さな箱が手に当たった。それを手に取り、ぱかりと蓋を開く。
 
「…………」

 しかし一筋の光もないこの部屋では、箱の中身は視認できない。女性は迷いを振り払うように乱暴に蓋を閉めて箱を机に置きなおし、夜闇に紛れて気配を消した。