【幕間1:『魔物の変質過程~植物魔物編~』】

 ふう。料理の片づけが終わったあと、俺はカル兄に案内された客室のベッドに寝転がって全体重を寝台に預けた。数年間誰も住んでいない家だから、てっきり部屋も布団もかびて使い物にならないと思っていたのだが、今のところくしゃみも出ないし鼻もむずむずしない。カル兄が毎年帰省したときに大掃除しているというのは本当のようだ。そういえば、俺が料理している間になにかがさごそやっていた気がする。たぶんあの時に布団の洗濯やらなんやらをしていたのだろう。

「さて、折角貸してくれたんだしちょっとは読んどかないとな」

 俺はベッドへうつぶせに横たわったまま、昼間に借りた本を開いた。分厚い本を一晩ですべて読みきる気も起きないので、ぱらぱらとめくりながらレポートに使える話題が書かれていそうな箇所を探す。まず一章では動植物が変質して魔物になるプロセスの解説を、二章では動物由来の魔物と植物由来の魔物との違いを、三章では植物魔物に共通してみられる特徴を——なんだか、どれも授業で習ったことばかりで退屈そうだ。そんな中、ふと俺は最終章……の中のコラムに目を惹かれた。『突撃! 魔物植物の晩御飯』という、なんとも軽いタイトルである。

《魔物植物も通常の植物と同様、日光によってエネルギーを得る。古い魔物は太陽の光が直接照りつけている間しか活動しなかったが、魔王討伐後は独自の進化を遂げた夜行性の魔物植物も増え始めた。そいつらは植物本来の特徴からさらに離れた体質へと変容しており、夜の栄養補給のために虫や他の植物を食べることもあるという。草食植物という、新しい生物のカテゴリが出来た瞬間である。植物の健啖家化はとどまることを知らない。》

「ふふっ。健啖家化ってなんだよ」
 著者の謎造語を用いたへんてこな記述に思わず笑いが零れた。恐らく虫を食べる魔物は、食虫植物から変質したものなのだろう。しかしここまで読んで、俺はひとつ重要なことに気づいた。……この本って歴史に全然関係ないじゃんか! 返品だ返品!!

 俺はすぐさまベッドから起き上がって、カル兄の部屋のドアを叩きに行った。