【幕間1:カルメ先生の魔術講座・魔法道具編】

「来たかイオニア、今日は高名な魔術師でもあるこの僕が特別に『魔法道具論』の授業をしてやろう」
「なるほど、今日は何の依頼も来なかったんだね」

 騎士学校での授業が終わった放課後、イオニアはしばしばカルメの探偵所にバイトをしに来ている。午前中のうちに何かしらの依頼があればそれを手伝うが、何も依頼がないときはカルメの魔法研究や謎の暇つぶしに付き合わされることも多い。今日は探偵所のドアを叩いて開口一番こう言われたので、よほど暇だったのだろう。

 とはいえカルメの魔法知識の深さは折り紙付きだ。そんな人の講義をタダで受けられるのならそう悪い話でもない。なんだかんだで根っこは真面目なイオニアは大人しく席に着いた。
「るっせー。おかげで読書が捗ったからいいんだよ」
 そう言いつつ、土魔法で手際よく黒板とチョークを錬成していくカルメ。黒板に大きな字で『魔法道具論』と書きくるりとイオニアに向き直った。

「ハイ、ではイオニア君。魔法道具とは何か簡潔に説明せよ」
「魔法道具とは、『魔力伝達線』を用いて構成された道具のこと。略して『魔具』って言ったりもするね」

「その通り。雷魔法を乗せる魔力伝達線で作られた『通信機』や、火魔法を乗せる魔力伝達線で作られた『焜炉』など、その種類は多岐に渡る。じゃ、これらの魔具が開発されるようになって、人々の暮らしはどう変わった?」
「魔法を使えない種族や人々が、魔法の恩恵を受けられるようになったこと! それまでは魔法使いが火魔法を使うか、いちいち火おこしをしないといけなかったのが、焜炉のおかげで魔法の使えないひとも手軽に火を使うことが出来るようになったんだよね」
「正解。魔力伝達線が開発されたのは大体今から百年ぐらい前で、そっからあれよあれよという間に魔法道具の量産体制が整っていく。この一連の流れを『魔法産業革命』と称する歴史家もいるぐらい、この世界の技術力が急速に進歩していったんだ。現在でも魔力伝達線の研究は続けられていてな、つい昨日発行されてた学術誌にもそれについての論文が出てたぜ」

「へー。カル兄が研究者っぽいこと言うとなんか変な感じ」
「変もなにも本業だっつーの。お前僕がこの前出した新書の魔術書見たか? コスパの良い手伝い用ゴーレムの作り方とか魔術界では大発見だったんだぞ?」
「俺は土魔法使えないから関係ないしなぁ」

 イオニアとしては、コスパの良い剣術稽古の仕方などの方がよほど興味のあるコンテンツである。早くも授業から脱線し始めたカルメとイオニアの雑談は、結局イオニアが帰宅するまで続いたのであった。