「こんな感じの魔法戦士っぽいロングコートもいいしー……吟遊詩人みたいなおっきい帽子もおしゃれだよね!」
「ふむ……冒険者たちそれぞれの職業に合わせた服が個別に仕立てられているのか」
はしゃぐイオニアにされるがままのアイセル。服なんて着れればなんでもいい派のカルメは、彼らのことをぼけっと遠巻きに眺めていた。
輝かしい一国の王子が地味な旅人へ変身するにあたって、一番重要なのは服装だ。アイセルがあの黒衣の下に着ていたのはいつもの王族衣装だったため、まずは全身を一般的な旅人コーデに着替えなければならない。ファッションに対して明るくないカルメは、ミーハーなイオニアに全てを任せて楽をしようとしたのだが。
「長ーーーい!」
長い。長すぎる。服屋の平均滞在時間が10分ほどであるカルメをよそに、イオニアたちはゆうに一時間ほどこの店に居座っているのだ。これでは市井の風俗見学ではなく、市井の服見学で一日が潰れてしまう。
「何のために気配を薄くする魔法をかけてやったんだよ……」
念には念を入れて、ということで外出前にカルメはアイセルに魔法をかけてやった。これを一回かけるだけで、アイセルのことは他の人々の印象にほぼ残らないようになっている。『そこに人がいる』ということは周りにもわかるが『それが一体誰なのか』という点については一切気にならないようになるのだ。
だからイオニアがいくら『アイセルさん』と呼びかけても、周りの人々はそれがアイセル王子だとは夢にも思わない。(ああ、そこに人がいるなあ)程度の記憶しか残らないのである。
「だからといって服屋で一時間は勘弁してくれ……」
まだまだ嘆くカルメのもとに、ほくほく顔の剣士がふたり。
「ただいま。どうだい、旅の剣士に見えるかな?」
「たっだいまー! 今回の買い物は経費でよろしく!」
「経費って回りくどい言い方すんな! 結局僕のポケットマネーじゃねーか!」
ちゃっかり自分のぶんの買い物も済ませたイオニアの横には、なるほどどこからどう見ても旅の剣士、といった出でたちのアイセル。カルメは相棒の手腕に素直に感心した。
「おー。結構それっぽくなってるもんだな」
「城では剣の稽古もつけて頂いているからね。武道を嗜む物の端くれとして、最低限の身のこなしは身につけているつもりさ」
そう言ってアイセルは腰に下げた片手剣を見る。流石に服屋で武器は買えないので、イオニアのコレクションのひとつを借りてきていた。
「さて、じゃあ早速レストール観光と洒落込むか!」
「おー!」
三人の旅人は燦々と照りつける太陽のもとを歩き出した。