【幕間2:ぐだぐだした朝】

 今日の朝のこと。俺はざああああ、という砂利の流れるような音で目を覚ました。またカル兄が何か妙な魔法を使っているのかとも思ったが、その疑惑は窓の外を見やると同時にきれいさっぱりと消えてなくなる。

「うわ、雨だ……」

 いつから降り始めたのか、窓の外は滝のような大雨だった。大きな雨粒が窓へ叩きつけられ、一年間掃除していなかった窓が綺麗に洗い流されていく。

「これはこれで、カル兄が喜びそうだな」

 俺は昨日の夕食の席を思い出した。確かカル兄は明後日か明々後日には家の大掃除をするといっていたはずだ。あのものぐさなカル兄が自分から掃除をするなんて言い出しているのだから、俺も手伝ってあげないと。とはいえ、それは明日以降のことだ。今日は待ちに待った博物館! 俺はわくわくしながら朝の支度を整えようとして、ふと枕元の置時計に目を留める。時計の長針は九を少し過ぎていた。

「ま……じで?」

 俺は目を擦り、もう一度時計を見る。しかし長針は先程よりも少し斜め上に傾き、これが夢ではないことを主張するのみだ。……ここまで盛大に寝坊したのは久しぶりだ。人間大きなやらかしをすると逆に冷静になるもので、俺は普段と同じように着替え、むしろ普段よりゆったりとした足取りで居間へと歩みを進めた。

「おはよー。寝坊してごめーん」

 誰か起きていると思って声をかけたが、いくら待っても返事は帰ってこない。どうやら俺が一番乗りのようだ。カル兄はともかく、コンレイさんもねぼすけなのは意外だった。仕方ない、俺がみんなの分の朝ごはんを作るとするか。そう思って食糧庫を開けた俺は次の瞬間、自らの失敗を悟る。

「……あああっ! 今日の分の食材を買ってくるの忘れてたあ!」

 昨夜ケンドル王国に到着し、夕食の材料を買ってきたまでは良かった。しかしみんな疲れていたのか、次の日の分の食料まで気が回っていなかったのだ。その結果、現在食糧庫に残っているのは、昨日コンレイが気まぐれに買い物かごへ入れた一房のバナナだけ。

 どうしたものかと困り果てていると、後ろでがたりと物音がした。振り返るとそこには寝ぼけ眼のカル兄の姿。危なっかしくふらつきながらこちらへ向かってきた彼は、俺の方を見てふにゃふにゃと言葉を紡いだ。

「イオニアー、朝飯まだかあ?」
「ああ、すぐにでも食べられるよ」
「まじ? 準備いーな」

 逆だ、逆逆。準備していなかったのだ。俺は心の中で突っ込みをいれつつ、テーブルについたカル兄の目の前にどん、と一本の朝食を出した。

「はい。バナナ」
「…………は?」