剣士「消えた恋人を探せ!の巻」 - 2/3

【彼女の家前】

剣士「魔族の人はいないかな~っと」キョロキョロ

魔術師「まだ転移魔法諦めてないのか…」

剣士「おっ、あそこにハーピーの人を発見!ちょっと声をかけてくるよ」タッタッタッ

魔術師「そう上手くいくもんなのか?」

数分後…

剣士「やったね!このハーピーさんが転移魔法で探偵所まで送ってくれるって!」

魔術師「マジかよ」

ハーピー「お安い御用ですよ~」フワフワ

魔術師「正直めちゃくちゃ有難いが…よくこんな見ず知らずの奴らを手助けする気になれたな?」

ハーピー「えへへ~。この前魔王軍っていう魔物達が貨物船を襲ったのはご存知です?」

魔術師「もちろんだ。今朝も新聞で読んだぞ」

ハーピー「これらの件で魔物への警戒心を強めた一部の過激な人間さん達が、魔族に対しても不信感を募らせていってるらしいんですよ」

ハーピー「だから、せめてこちらから平和に歩み寄っていこうと思って積極的に人助けをしてるんです」

魔術師「『魔物』は人々を襲うわるーいモンスターを指す言葉」

魔術師「『魔族』は君みたいなハーピーや、ラミア、人狼などの亜人を指す言葉」

魔術師「両者に特筆するような関連性はない」

魔術師「でも、魔族は昔からただ姿が違うってだけで差別されてきたんだ」

魔術師「今でこそ薄れてきたが、まだ魔族たちに対して良い感情を持たない奴らもいるもんな」

剣士「なんだかやるせないね…」

ハーピー「昔は昔!今を生きるのは私たちです」

ハーピー「最近では異種婚が認められるようになったりして、着実に変わっていってますよ」

魔術師「そうだな。これからの時代を担うのは僕達だ」

魔術師「じゃあ早速で悪いが、まずはあの公園まで転移させてくれないか?」

剣士「あれ?探偵所に帰らないの?」

魔術師「帰るさ。だがその前にやりたいことができた」

ハーピー「了解です。ではれっつごー!」ヒュン

【海浜公園】

ハーピー「着きました!こちら、海辺の景色が素晴らしい海浜公園で~す」

魔術師「よし、サンキュ」

魔術師「僕はちょっとデカめの魔法を使うから、お前らは先に海辺へ行っててくれ」

ハーピー「わかりました!さ、行きましょ剣士くん」

剣士「あ、ハイ!(なんでハーピーさんに先導されてるんだろう…)」

【海辺】

ハーピー「魔術師さんたら遅いですね~」

剣士「そうだね」ヒュン…ヒュン…

剣士「748、749、750!」ヒュン!

ハーピー「さっきからやってるのって、もしかして素振りですか?精が出ますね!」

剣士「ふふん、俺だって一介の剣士ですから!暇潰しには素振りが一番馴染むんだ」

剣士「間違っても武闘家に転職なんてしないからな!!」クワッ

ハーピー「な、なんの話でしょう…?」キョトン

青年(?)「気にすんな。こっちの話さ」スタスタ

剣士「あれ、青年さん!?なんでここに?」

青年(?)「よし、出来は上々っと」

ハーピー「この方、一体どなたです?」

青年(?)「僕らの依頼人さ。どうだ?中々上手く変身できてるだろ?」

剣士「なんだ、魔術師さんか。その格好は魔法でやったの?」

魔術師(青年ルック)「ああ。でも変身魔法は魔力の消費が激しいし、時間もかかるんだ。だから二人には先に行っててもらった」

剣士「でも青年さんに変身してどうするのさ」

魔術師(青年ルック)「百聞は一見にしかず。まあ見てろって」コホン

そう言うと魔術師は海と相対し、青年の声で語りかける。

魔術師(青年ルック)「ねえ、いるんだろ?出てきてくれよ」

魔術師(青年ルック)「僕は君に会いたいんだ。たとえどんな姿であっても」

魔術師(青年ルック)「ひと目見るだけでもいい、君の声を聞かせてくれ」

ハーピー「あっ!海の中から誰かが出てきます!」

魔術師(青年ルック)「よしきた!」

すると大きな渦潮が巻き起こり、中から美しい女性が現れた。

??「青年くん…?どうしてここがわかったの?」ピチャ…

魔術師「あー…僕は青年くんじゃねぇんだ、ごめんな」スッ

魔術師が手を振りかざすと彼の身体は光に包まれ、次の瞬間には元の姿へと戻っていく。

魔術師「だが、青年くんもさっきの僕と同じようなことを言ってたぜ。いい彼氏を持ったな、セイレーンさん」

剣士「魔術師さん?まさか彼女さんってこの魔族さんなの?」

魔術師「ああ。あの子の左手薬指にはめられている、宝石のついた指輪が何よりの証拠さ」

セイレーン「な…だ、誰?青年くんの知り合い?」

魔術師「僕らは青年くんに頼まれて君を探しに来た。まあ知り合いみたいなもんだ」

セイレーン「…。そうよね、あの人も心配してるわよね…」

剣士「ううむ…誘拐犯どころか、まさか彼女さん自身が魔族だったとはなぁ」

魔術師「僕はこういうのが苦手だから単刀直入に聞くが、どうして青年くんの前から姿を消したんだ?」

セイレーン「恐くなったの…」

剣士「というと?」

セイレーン「私はね、変身魔法で人間に変身して、海辺を歩くことが大好きなの」

セイレーン「セイレーンの身体じゃ辿り着けないような、陸地の色んな景色を見るのが好きだったわ」

セイレーン「でもある日、いつものようにここを散歩していたらあの人と出会ってしまったのよ」

剣士「青年さんだね!」ワクワク

セイレーン「青年くんと知り合ってからは毎日が楽しかったわ」

魔術師「青年くんと会うために、毎日変身魔法を使って人間に変身してたんだな」

セイレーン「その通りよ。けれど、正体を隠して交際し続けるのにも限界があるわ」

セイレーン「会う度に複雑な感情で胸が締め付けられる…。そんな時だったの、青年くんからプロポーズを受けたのは」

セイレーン「結婚を申し込まれた時はもちろん嬉しかったわ。けれど、時間が経つにつれてどんどん現実に引き戻されていくの」

セイレーン「このまま、自分の本当の姿を見せないまま結婚なんて出来るのかって」

セイレーン「そうして夕食の後に何気なく新聞を読んでいたら、今までのぐちゃぐちゃした感情が込み上げてきて…」

魔術師「それでどうしようもなくなって、海に逃げ込んだ訳か」

セイレーン「何も言わずにいなくなってしまって、本当にごめんなさい」

魔術師「それは僕達じゃなくて、青年くんに直接言うんだな」

剣士「だね。青年さんたらすっっっごく心配してたよ。覚悟を決めて、全て打ち明けてみたら?」

セイレーン「でも、今更もう遅いわよ…」

ハーピー「…そんなことないです!」

剣士「は、ハーピーさん?」

ハーピー「何かを変えるのに遅すぎるなんてことはありません」

ハーピー「ちょっとの勇気で、人生は180度変わるんですよ!」

ハーピー「正直、私はただ成り行きで着いてきただけなのであんまり話の概要を掴めてませんが」

ハーピー「でも、でも!おんなじ魔族の方が、自分の種族のことで苦しんでいるのを見るのは辛いんです」

セイレーン「…あなた、見ず知らずの私にどうしてそこまで?」

ハーピー「なんだか親近感が湧いてしまって」

ハーピー「悪い人間もいればいい人間もいるように、悪いセイレーンもいればいいセイレーンもいるんです」

ハーピー「人間だって、魔族だって、それだけのことです」

ハーピー「人間でも魔族でも、貴方が恋人さんをただ一心に愛する気持ちは変わらない」

ハーピー「私、貴方の恋路を応援しますよ!」グッ

セイレーン「…うん、ありがとう」

セイレーン「あなたの言葉で、ちょっと勇気が出てきたみたい」

セイレーン「ちょっと恐いけど、足踏みしてても何も変わらないわよね」

セイレーン「お願い、青年くんの所まで連れていって」

魔術師「うぅむ…。なんだかオイシイ所を取られたようで釈然としねぇが、承知した」

魔術師「じゃあ悪いがハーピーさん、とりあえず一旦探偵所まで転移魔法を…」

ハーピー「はーい!」

剣士「待って。その必要はないみたい」

魔術師「え?あっ、向こうにいるのってまさか!」

青年「あれ、魔術師さんじゃないですか。どうしたんです、こんな所まで」

セイレーン「!?」ザパッ

セイレーンは反射的に身を隠してしまうが、青年はそれに気付かず会話を続ける。

魔術師「それはこっちの台詞だ。お前の住所はこっち側じゃなかったよな?」

青年「そうなんですが、ここは僕と彼女が初めて出会った思い出の海浜公園でして」

青年「魔術師さんにご依頼したはいいものの、じっとしていられなかったんです」

魔術師「そういえば彼女さんもそんなことを言ってたな」チラッ

セイレーン「…!」ビクッ

青年「ん?その口ぶり!もしかして彼女と会えたんですか!?」

魔術師「ああ。あとはお前達ふたりの問題だ。僕達は一足先に失礼するぜ」ヒラヒラ

魔術師「ハーピーさん、転移魔法を頼む」

ハーピー「がってん承知です!」ヒュン

青年「え?ちょ、ちょっと!!」